かない内科の井上学です。
かない内科のHPを訪問してくださり、また多くの活動に注目していただきありがとうございます。
ここでは、がん治療認定医の井上が、国内死因トップである「がん」に関してなるべく分かりやすくお伝えしていきます。助手との会話形式のブログで解説していきます。
皆さんからのご意見やご希望をお待ちしていますので、遠慮なくいつでもご連絡ください。
今日のテーマは「遺伝するがんって本当にあるの?―がんと遺伝性疾患のお話」についてです。

「先生、“がんって遺伝するんですか?”って、かない内科でも患者さんからよく聞かれますよね。正直、私もどう説明したらいいのか迷ってしまうことがあります。」

「確かに“がん=遺伝する”というイメージは強いよね。でも実際には、2人に1人ががんに罹患し、日本でも死因の第1位になっているがんは、多くの人が経験してしまう。つまり、がんの多くは遺伝しないんだ。むしろ“生活習慣×加齢”が原因で起こる“後天的※ながん”がほとんどなんだよ。」

「え、そうなんですか?家族にがんの人がいると不安になりますけど…。」

「その気持ちは当然。でも実際に“遺伝が強く関係するがん”は全体の5〜10%程度とされているんだ。つまり90%以上は“遺伝しないタイプ”。ここをまず安心してほしいね。」
【遺伝性のがんとは?】

「じゃあ、遺伝するがんってどんなものなんですか?」

「それが“遺伝性腫瘍”と呼ばれるもので、親から受け継いだ遺伝子の変化(=生まれつきの異常)が原因で起こるがんのことだよ。たとえば――」
・遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(BRCA1/2遺伝子)
・リンチ症候群(大腸がん・子宮体がんなど)
・家族性腺腫性ポリポーシス(大腸ポリープが多数できる)

「映画やドラマでも“BRCA遺伝子”って聞いたことがあります!女優のアンジェリーナジョリーさんが予防的に両乳房を手術したことでも有名になりましたね。つまり、遺伝子に傷があるとがんになりやすくなるんですね。」

「そう。遺伝性腫瘍の仕組みは、例えるなら“制御ブレーキが弱い車で生まれてくる”イメージだね。普通なら細胞の暴走を抑える遺伝子があるんだけれど、遺伝性のがん患者さんは、生まれつきそのブレーキが弱い。だからがんが起こりやすいというわけ。」

「後天的ながんと何が違うんですか?」

「これも例えで話すとわかりやすいよ。 後天的ながんは“新品の車でも長年乗れば部品が傷んで故障する”ように、生活習慣・加齢・環境によって細胞の遺伝子が傷つき、徐々にがんが発生する。 一方で遺伝性のがんは、“生まれた時から重要な部品が弱い車”で、故障リスクがもともと高い状態なんだ。」

「なるほど…。だから遺伝性のがんは若い年齢で発症することが多いんですね。」

「その通り。たとえばBRCA遺伝子異常を持つ人は、30〜40代で乳がんになる可能性が高くなる。リンチ症候群も、一般より若く大腸がんが発生しやすいんだ。」
【遺伝性がんの特徴(予後にも関係)】

「遺伝性のがんは、普通のがんより“重い”ってイメージがありますけど…。」

「確かに進行が早いタイプもあるけれど、“遺伝性だから予後が悪い”とは一概に言えないんだよ。むしろメリットもある。」

「メリット…ですか?」

「うん。遺伝性腫瘍は“将来どんながんが起きやすいか”がある程度わかっているから――」
・早めに検診ができる
・予防手術を選べる
・特殊な薬(PARP阻害薬など)が効くことがある など、“対策の選択肢”が広いんだ。」

「たしかに、事前にわかっていると備えられますね。」
【誰が遺伝子検査を受けるべき?】

「じゃあ全員が遺伝子検査を受けた方がいいんですか?」

「いや、それは違う。遺伝性腫瘍は少ないから、対象になるのは――」
・50歳未満でがんを発症
・家族に同じがんが複数人
・多発性のがんを発症
・特定の組み合わせ(乳がん+卵巣がんなど)など、“遺伝性を疑う特徴”がある人だね。

「クリニックでも家族歴を聞くのってすごく大事なんですね。」

「その通り。家族歴は“未来を写す鏡”みたいなものなんだよ。」
【遺伝するからといって“確実に”がんになるわけではない】

「先生、遺伝性がんの遺伝子を持っていると、やっぱり必ずがんになってしまうんですか?」

「そこも誤解が多いポイントだね。“遺伝子=運命”ではない。BRCAでもリンチ症候群でも、“確率が上がるだけ”なんだ。つまり“予防で下げられるリスク”なんだよ。」

「運命じゃなくて“傾向”なんですね。そう聞くと気持ちが楽になります。」「でもやっぱり遺伝子の話って、どうしても怖いイメージがあります。」

「実際には、“怖いかどうか”じゃなくて、“知るかどうか”が大切なんだよ。 遺伝性がんは、正しく知れば“予防できる病気”でもある。」

「たしかに…。未来の治療や検診の選択肢が広がりますもんね。」

「その通り。もし家族歴が気になるなら、遺伝カウンセリングを受けるのも一つの方法。専門家と一緒に“自分のリスク”を整理することで、不安よりも“対策”に目を向けられるようになる。」
【読者へのメッセージ】

「先生、最後に読者にひと言お願いできますか?」

「がんは決して“遺伝だけで決まる病気”ではありません。多くのがんは生活習慣や偶然の遺伝子変化で起こります。一方で遺伝性のがんを持っている人がいるのも事実で、その場合は早期発見や予防がとても有効です。“家族にがんが多い気がする”“若いころにがんになった家族がいる”そんな時は、一度専門家へ相談してください。知ることは、怖さではなく、あなたを守る力になります。」
※後天的:生まれつきではなく、生まれてから後に身につくこと。遺伝以外の環境要因。
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