かない内科の井上学です。
かない内科のHPを訪問してくださり、また多くの活動に注目していただきありがとうございます。
今回は、子宮頸がんが「予防できる可能性の高いがん」と言われる理由についてお話しします。HPVというウイルスとの関係や、世界で進む子宮頸がん予防の取り組みを、わかりやすくご紹介します。
今日のテーマは「「予防できるがん」を知ろう。 ~世界が目指す”子宮頸がん排除”という未来~」についてです。

「先生、”がんは早期発見・早期治療が大切”という言葉はよく聞きます。でも最近、“予防できるがん”があるって聞いたんですけど、本当ですか。」

「いい質問だね。実は現在の医療において、”予防できる可能性が非常に高いがん”として世界中で対策が進められているものがあるんだ。」

「えーーーー、本当ですか……少し信じられません。それってどんながんなんですか。」

「それはね、“子宮頸がん”なんだ。」

「へーーーー。なんか日本では、芸能人とかが子宮頸がんを公表したりしているのを聞いたりしますよ。」

「そうだね。残念ながら、まだ多くの人が発症してしまうがんの一つなんだ……がんの多くは生活習慣や遺伝、加齢など様々な要因が複雑に関係して発症する。でも子宮頸がんは違う。発症原因の95%以上が、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの持続感染によることが分かっているんだ。」

「原因がそこまで分かっているんですね。」

「そう。だからこそ、原因となるHPVへの感染を予防し、さらに定期的な検診で前がん病変を見つけることができれば、多くの子宮頸がんは防げると考えられているんだ。」

「HPVって、特別なウイルスなんですか?」

「実は全く逆で、ごくありふれたウイルスなんだ。性交渉を経験した女性の50~80%は一生のうちに一度は感染すると推定されている。男性も同じように感染する。感染すること自体は珍しいことではないし、多くの人は免疫の力で自然にウイルスを排除できているんだ。」

「じゃあ、感染しても心配しなくていいのでしょうか?」

「ほとんどの人は問題ない。でも一部の人では感染が長期間続いてしまう”持続感染”という状態になるんだ。この持続感染が数年から十数年かけて前がん病変をつくり、さらに一部が子宮頸がんへ進行してしまう。」

「つまり、子宮頸がんは突然できるわけではなく、長い時間をかけて進行する病気なんですね。」

「その通りなんだよ。だからこそ予防する時間も、見つける時間も十分にある。」

「日本ではどのくらいの方が子宮頸がんになるのでしょう?」

「いい質問だねー。毎年約11,000人以上が子宮頸がんと診断されて、約2,700人以上が命を落としている。そして特徴的なのは、20~30代の若い女性に多いことなんだ。」

「そんなに亡くなっているんですか……まだ子育てや仕事を頑張っている年代ですよね……。」

「そうなんだ。子宮頸がんは命に関わるだけではない。治療内容によっては子宮を摘出しなければならず、妊娠や出産に影響することもある。だから患者さん本人だけではなく、家族の人生にも大きく関わる病気なんだ。」

「だからこそ予防が重要なんですね。」

「実は世界では、すでに予防の成果が現れている。」

「そんなに進んでいるんですか??」

「代表的なのがオーストラリア。HPVワクチン接種と子宮頸がん検診を積極的に進めた結果、子宮頸がんの罹患率は人口10万人あたり約5人まで低下。2021年には25歳未満の子宮頸がんは実質的にほとんど見られなくなったと報告されている。」

「すごいですね……。」

「さらにオーストラリアは2035年頃までに世界初の『子宮頸がん排除国』になることを目標にしている。ここでいう排除とは、完全になくなるという意味ではないけれど、公衆衛生上ほとんど問題にならないレベルまで患者さんを減らすということなんだ。」

「”子宮頸がんは過去の病気になる”という未来が、本当に現実になろうとしているんですね。」

「イギリスやニュージーランドでも同じような成果が報告されている。ワクチン接種率が高い国ほど、前がん病変や子宮頸がんが大きく減少していることは、多くの研究で示されているんだ。」

「先生、それだけ効果があるなら、日本でも同じようになれるのでしょうか?」
先生は少し表情を曇らせた。

「残念ながら、日本は世界から少し遅れてしまった。」

「どうしてですか?」

「2013年、HPVワクチン接種後に報告されたさまざまな症状が大きく報道され、社会全体に不安が広がった。その結果、厚生労働省は積極的な接種勧奨を一時的に差し控えることになり、その状態は約8年間続いた。」

「その影響は大きかったんですね。」

「接種率は一時1%未満まで落ち込んだ。一方、その間もHPVへの感染は止まらず、多くの若い女性が子宮頸がんを発症した。予防できたかもしれない命が失われた可能性も指摘されている。」

「先生、これから日本はどうすればいいのでしょう。」

「答えは決して難しくない。科学的な根拠に基づいた正しい情報を知ること。そして、HPVワクチンと子宮頸がん検診という二つの予防法を適切に活用することだね。クリニックにもやれることはたくさんある。」

「つまり、『知ること』が最初の一歩なんですね。」

「その通り。子宮頸がんは、がんの中でも未来を変えられる可能性が最も高い病気の一つだ。世界はすでに『治療する時代』から『予防する時代』へ歩み始めている。日本もその流れに取り残されてはいけない。」

「次回は、その中心となるHPVワクチンについて詳しく教えてください。」

「もちろん。『本当に安全なの?』『副反応は?』『なぜ世界は接種を勧めるの?』——
次回は、その疑問に科学的根拠をもとに、一つずつ答えていこう。」
次週のテーマは「HPVワクチンは本当に安全なのか? 〜「副反応」と科学的根拠を正しく理解する〜」についてお話しさせていただきます。
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