かない内科の井上学です。
かない内科のHPを訪問してくださり、また多くの活動に注目していただきありがとうございます。
今回は、HPVワクチンの安全性についてお話しします。「副反応が心配」「本当に接種して大丈夫なの?」という不安に対して、科学的な根拠をもとに整理していきます。
それでは書いていきたいと思います。
今日のテーマは「HPVワクチンは本当に安全なのか? 〜「副反応」と科学的根拠を正しく理解する〜」についてです。

「先生、前回のお話を読んで、『子宮頸がんは予防できる可能性が高いがん』ということはよく分かりました。でも、正直に言うと、まだ一つだけ不安があります。」

「HPVワクチンの安全性について、かな?」

「はい。ニュースで、接種後に歩けなくなったとか、強い痛みが続いたとか、そういう映像を見たことがあります。あれを見てしまうと、『本当に打って大丈夫なの?』と思ってしまいます。」

「その気持ちはとても自然だよ。実際、同じような不安を持つ保護者の方や接種を考えている患者さんは少なくない。だからこそ、今日は『感情』ではなく『科学的な事実』を一緒に整理してみよう。」

「そもそも、2013年に何が起こったのでしょうか?」

「2013年4月、HPVワクチンは定期接種になった。その直後、一部の接種者に、全身の痛みや手足の動かしにくさ、歩行障害など、さまざまな症状が現れたという報告が相次ぎ、テレビや新聞で大きく報道されたんだ。」

「私も、その映像だけは今でも覚えています。」

「社会に与えた影響は非常に大きかった。厚生労働省は安全性を慎重に評価するため、積極的な接種勧奨を一時差し控えるという判断をした。そして、その状態は約8年間続いた。」

「その結果、日本の接種率は大きく下がったんですよね。」

「そう。一時は1%未満まで低下した。一方で、HPV感染そのものは止まらない。つまり、ワクチンで予防できた可能性のある子宮頸がんが、その間にも発生し続けたということなんだ。」

「でも、実際に症状が出た方がいたことも事実ですよね?」

「もちろん、その事実を軽く考えてはいけない。症状に苦しんだ方がいることは間違いないし、その方々への支援はとても大切だ。」

「では、その症状はワクチンが原因だったのでしょうか?」

「そこが最も重要なポイントなんだ。医療では、『接種した後に起きた』ことと、『接種が原因で起きた』ことは同じ意味ではない。」

「どういうことでしょう?」

「例えば、ワクチンを接種した翌日に風邪をひいたとしても、それだけでワクチンが風邪の原因とは言えないよね。同じように、接種後に起きた出来事はすべて『有害事象』として報告されるけれど、その中から本当にワクチンとの因果関係がある『副反応』かどうかは、別に検証しなければならないんだ。」

「『有害事象』と『副反応』は違う言葉なんですね。」

「その通り。有害事象は『接種後に起きたすべての出来事』、副反応は『ワクチンとの関連が考えられる症状』という違いがある。この区別はとても大切なんだ。」

「当時問題になった『多様な症状』とは、どのようなものだったのでしょう?」

「報告された症状はさまざまだった。全身や関節の痛み、しびれ、脱力、歩行困難、不随意運動、強い倦怠感、めまい、睡眠障害、記憶力や集中力の低下など、本当に多岐にわたっていた。」

「症状だけ聞くと、とても心配になりますね。」

「だからこそ厚生労働省は長期間にわたり調査を行い、副反応検討部会で繰り返し議論を重ねた。そして海外の研究結果も含めて総合的に評価した結果、『HPVワクチンの安全性について特段の懸念は認められない』という結論に至った。」

「つまり、症状があったことは否定していないけれど、ワクチンとの因果関係は確認できなかったということですね。」

「その理解でいいと思う。」

「先生、『CRPS』や『POTS』という言葉も聞いたことがあります。」

「優秀だねー。CRPSは複合性局所疼痛症候群、POTSは体位性頻脈症候群という病気だ。どちらも実在する疾患で、患者さんは大きな苦痛を抱えることがある。」

「HPVワクチンで起こる病気なんですか?」

「現在の科学的な研究では、そのような疾患がHPVワクチンによって増えるという因果関係は確認されていない。重要なのは、これらの症状や、接種後に報告された『多様な症状』と似た症状は、ワクチンを接種していない同年代の子どもたちにも一定の割合でみられることが分かっていることなんだ。」

「つまり、『接種したから起こった』とは言い切れないということですね。」

「そう。思春期から青年期は、身体も心も大きく変化する時期だ。さまざまな身体症状が現れることがあり、その一部は『機能性身体症状』として説明できる場合があると考えられている。ただし、症状で困っている患者さんに対しては、『ワクチンとは関係ないから大丈夫』と片付けるのではなく、一人ひとりに寄り添い、適切な診療と支援を行うことが医療者の役割だと思う。」

「先生は、患者さんから『打った方がいいですか?』と聞かれたら、何と答えますか?」

「私はまず、『何を一番心配していますか?』と尋ねるね。そして、分からないことや不安なことを一つずつ説明するようにしている。」

「納得してから判断してもらうことが大切なんですね。」

「その通り。そして最後に必ずお伝えするのは、『リスクだけでなく、得られる利益も一緒に考えましょう』ということだ。」

「利益というのは、子宮頸がんを予防できることですね。」

「それだけではない。前がん病変を減らし、子宮を失う可能性を減らし、将来の妊娠・出産を守ることにもつながる。そして命を守ることにもつながる。医療では『ゼロリスク』の治療は存在しない。でも、多くの研究で利益がリスクを大きく上回ると評価されているからこそ、日本を含む世界中の専門学会や保健機関はHPVワクチンを推奨しているんだ。」

「正しい情報を知ることが、不安を減らす第一歩なんですね。」

「そう思う。大切なのは、SNSや一つの体験談だけで判断するのではなく、多くの人を長期間追跡した科学的なデータにも目を向けることだ。」

「次回は、ワクチンだけではなく『検診』や『男性へのHPVワクチン』についても教えてください。」

「もちろん。子宮頸がんを本当に減らすためには、ワクチンだけでは完成しない。検診、そして社会全体で予防を支える仕組みがあって初めて、『子宮頸がんを過去の病気にする未来』へ近づけるんだ。」

「良い話が聞けましたー。」
次週のテーマは「子宮頸がんを「過去の病気」にするために 〜ワクチンと検診が未来を変える〜」についてお話しさせていただきます。
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